日本セーリング連盟が主催して「JSAFジュニアチャレンジ葉山ラウンド」が3月7、8の2日間、神奈川県葉山町の葉山港で開催された。

中学生や高校生の世代を対象に、高速で帆走するハイパフォーマンス艇種と言われるディンギーやウインドサーフィンに試乗して、セーリングの魅力に触れてもらうのが目的。参加者は全員がヨット経験者だが、今回用意された3艇種には初めて挑戦するため、慣れない艇種に悪戦苦闘しながらも未知のセーリングを楽しんでいた。
JSAFジュニアチャレンジで使用したのは、2人乗りの29er級とウインドサーフィンのIQフォイル級、それに1人乗りのワスプ級という3艇種。29er級とワスプ級はそれぞれ3艇、IQフォイル級は2台が用意された。

▽コーチ陣は日本のトップセーラー
今回は6人のコーチが指導にあたった。責任者を務めた後藤浩紀さんはこの3艇種について「日本のジュニアやユースでは強化が進んでいないが、海外ではすごく普及していて、日本の穴になっている部分。ワスプと29erはジュニアのトレーニングボートとして、すごい勢いで普及している」と説明してくれた。
後藤さんは、フォイルが付いた1人乗りのモス級で全日本選手権優勝11度の実績を持ち、フォイル帆走の第一人者だ。さらに今回の使用艇である29er級の日本協会副会長で、国際29er級協会のアジア地区コーチでもある。そのほか、2004年アテネ五輪男子470級で銅メダルを獲得した関一人さんや、2008年北京五輪女子RS:X級代表の小菅寧子さんら、日本を代表するセーラーが指導をした。

今回使用したIQフォイルとワスプはともに水中翼を備えている。2024年パリ五輪から公式種目に採用されたIQフォイルはボードの後尾から垂直方向に、長さ1メートル近い水中翼が伸びている。その先端には小さな水中翼が2枚前後に取り付けられている。ワスプは艇の中央から下に伸びるセンターボードと舵の先端にそれぞれ水中翼がある。どちらも一定の速度に達すると、水中翼が揚力を生み出し、艇体やボードが水面から離れる。そうすると、水の抵抗力が小さくなり、高速につながるというわけだ。

ハイパフォーマンス艇は安定性と引き換えにスピードを得るのが特徴。不安定な艇体をコントロールできるようになるには一定の習熟が求められる。ヨットハーバーのスロープからワスプを水面に浮かべ、何度も横倒しになっては起こしを繰り返し、走り出すまで20分間ほどかかった参加者もいた。

▽子供たちに人気のフォイリング
今回は12歳から18歳までの子どもが2日間でのべ50人参加した。子どもたちは希望した艇種に交代で乗ったり、艇を乗り換えたりすることができた。水中翼(フォイル)の艇やボードで帆走することをフォイリングというが、話を聞くと人気があったのはやはりフォイリングだったようだ。

木下博貴君は千葉市立稲毛高校1年で高校のヨット部。高校の部活で使うのは、2人乗りの420級と1人乗りのILCA6級で、木下君は420級のクルーを務めているという。今回の体験について「IQフォイルは難しかった」としながらも、「めっちゃ楽しかった。このイベントにはまた参加したい」と振り返った。
1人乗りのRSエアロ級で海外遠征の経験を持っていたのが、横浜高校2年の武藤紗良さん。高校にはヨット部がないため、葉山のセーリングスクールでRSエアロ級のトレーニングを続けている。「フォイリングは以前から気になっていた」ことから、今回参加を決めた。高校最終学年となる今年は、インターハイ出場を目指す。
小学生も参加した。永藤千聖君と下山琥太郎君はそれぞれ4月から小学6年と中学1年になる。2人と同じクラブの樋口隆俊君は今度中学2年になる。クラブではウインドサーフィンに乗っている。今回はIQフォイルに乗るのを楽しみにしていたが、セールのサイズがいつもより大きくて疲れた様子。それでも「楽しかった」と笑顔だった。

<左から永藤千聖君、樋口隆俊君、下山琥太郎君>
今年秋に愛知県で開催されるアジア大会に、29er級での出場を目指すのが後藤晴人君と長堀滉君のコンビ。後藤君は今回の責任者を務める後藤浩紀さんの次男。昨年夏までオプティミスト級に乗っていたが、7月の世界選手権を終えて、長堀君と29er級に乗り始めた。後藤君は高校受験で一時、セーリングを中断していたが、進学が決まり、アジア大会を目指して練習を再開したところ。やはり「楽しかった」と笑顔で今回の体験を振り返った。

▽日本の課題はハイパフォーマンス艇
日本のセーリング界で大きな存在感を放つのがインターハイと国民スポーツ大会、それに全日本学生選手権を目指す学生ヨット。いずれも艇種が限定されていて、フォイルを備えたハイパフォーマンス艇は採用されていない。その面で、後藤さんが言うように日本のジュニア、ユースでの世界の潮流から取り残されているのだろう。将来もヨットを継続したいという稲毛高の木下君は「フォイリングがあった方が良いと思う」と話した。

<後藤浩紀コーチと小菅寧子コーチ>
今回、コーチを務めた小菅寧子さんは日本セーリング連盟のオリンピック強化コーチでもある。「世界はスピードボートが主流なので、日本も流れに乗る必要がある。今回参加してくれた世代にフォイリングを経験してもらい、早めにハイパフォーマンス艇に触れてもらいたかった」と説明してくれた。
五輪メダリストの関さんは第1日朝のオリエンテーションで「この中から日の丸を背負って、五輪でメダルを獲得する選手を出すことが夢」と子どもたちに語り掛けた。日本のセーリング界が獲得した3個のメダル(銀2、銅1)はいずれも470級でのもの。
今回のチャレンジでフォイリングやハイパフォーマンス艇に出会った子供たちが将来、日本にメダルをもたらしてくれることを期待したい。
